細胞を生体外で生かしたまま維持する技術を“培養”と言います。研究目的に応じて様々な種類の培養が行われていますが、組織の三次元構造を保持したまま行う培養が組織培養です。組織培養は、生体内の構造などをある程度保持したまま生体外で維持できるため、生体内に近い環境で動物個体を用いてはできないような操作と解析が可能となります。我々は、目的とする神経回路を保持するように神経組織をスライスし培養する“スライス培養法”を用いて、神経回路形成、記憶・学習、神経変性疾患の発症機構に注目し研究を進めています。
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海馬は、特徴的な層構造をもつ大脳辺縁系の一部であり、記憶や学習などの生理機能に関わる脳部位です。虚血などのストレスに対して非常に脆弱であり、アルツハイマー病における最初期の病変部位としても知られていることから、最も研究が進んでいる脳部位の1つです。我々は、海馬のスライスを長期にわたって培養下で維持することで、神経回路形成・成熟や記憶学習の細胞内素過程であるシナプスの可塑性に注目し研究を進めています。
我々はこれまでに、海馬のスライス培養を用いてアルツハイマー病の原因物質の1つであるアミロイドβペプチド(Aβ)の産生に関わるβセクレターゼがシナプス形成と成熟に必要であることを示しました。
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また、海馬スライス培養を用いることでAβの産生量の経時的な解析や、産生阻害薬の評価が可能です。さらに、数か月におよぶ長期培養を可能することで、アルツハイマー病における病理学的な特徴のひとつである老人斑の形成を再現し、それに伴う神経細胞障害や病態の進展について研究を進めています。
我々は、多くの共同研究者と共に海馬だけでなく大脳、中脳、小脳、脊髄などのスライス培養を行い、様々なモデル動物由来の組織やウイルスによる原因遺伝子の発現などを用いることで神経疾患の初期病態を再現し、イメージング等により解析する研究を進めています。