組換え抗体ライブラリーと光による蛋白質機能不活性化法(FALI)を用いた創薬標的探索

光による蛋白質機能不活性化法の1つである chromophore-assisted laser inactivation (CALI) は、マラカイトグリーン標識抗体とレーザー照射により特定蛋白質を生細胞・生体内においてリアルタイムで不活性化する技術です。レーザーにより抗体標識色素のごく近傍のみに短寿命のOHラジカルを発生させ、抗原である標的分子に限局した不活性化を引き起こします。CALIを用いることで神経突起伸長に重要な分子の機能が明らかにされてきました (Sakurai T et al., Proc Natl Acad Sci USA, 99:10795-10800, 2002など)。

CALIは、抗原蛋白質の機能を阻害しない抗体を色素標識・光照射により機能阻害抗体に変える技術ともいえます。抗体ライブラリー・細胞機能アッセイ系と組み合せることで、新たなスクリーニング法となる可能性があります。しかしながら、CALIは高出力のパルスレーザーを必要とし、同時に多検体処理ができないため、スクリーニングには適していません。そこで、マイクロウェルプレートに対応し通常の光源で多検体同時処理可能な変法としてフルオレセインを用いたfluorophore-assisted light inactivation (FALI) を開発しました(Beck S, Sakurai T, et al., Proteomics, 2: 247-255, 2002)。

FALIによる蛋白質不活化の特徴
ハロゲンランプなど通常の光源を用いた光照射によりフルオレセイン周囲に発生する一重項酸素の産生は低レベルであり、標的蛋白質(または蛋白質複合体)のみにその効果が蓄積します。メチオニン、ヒスチジン残基などの酸化による抗原蛋白質の不活性化が起こります。

FALIをがん細胞浸潤のin vitroモデル系に応用し、抗原未同定の抗体ライブラリーから光照射により浸潤抑制を引き起こす抗体クローンを選択することで創薬の新規標的を探索するスクリーニング法を開発しました (Eustace B, Sakurai T, et al., Nature Cell Biol, 6: 507-514, 2004)。結果として細胞外のHsp90αを浸潤抑制の新規標的蛋白質として同定しました(その意義についてはNews and Views参照Picard D, Nat Cell Biol, 6: 479-480, 2004)。多彩な機能を担う重要分子の細胞外における機能を明らかにしたという点で、細胞に対して部位特異的阻害が可能なFALIの特徴がよく表れた結果となりました。細胞全般的な抑制を引き起こすRNA干渉や低分子化合物ライブラリーを用いたスクリーニングでは探索が難しい標的と考えられます。


FALI による創薬標的の探索
未知の標的(細胞表面蛋白質)に対する組換え抗体ライブラリーを作製し、フルオレセインで標識します。細胞表面への結合後、光照射を行い、細胞機能アッセイを行います。機能変化を起こす抗体クローンを選択し、免疫沈降によりその細胞機能に重要な標的蛋白質を同定します。

神経細胞は軸索・樹状突起など高度な極性を持つ細胞であり、シナプス、ミエリンなど神経細胞間、神経-グリア間接着部位に受容体、チャネルなどの膜機能分子を集積し、情報伝達や機能調節を行っています。近年、神経-グリア相互作用が神経機能に深く関与していることが明らかにされています。その機能は多岐にわたり複雑な細胞・組織構築を背景にしているため、関連分子の探索・解析のためには相互作用している場において直接機能解析を行う新しいアプローチが必要とされています。神経グリア混合培養モデル系にFALIを応用して神経-グリア相互作用に関連する膜蛋白質を細胞培養系で探索し、新規の創薬標的を発見することを目指しています。